うさぎの歯の構造と治療


--はじめに--

ウサギに多い病気のひとつに歯の疾患が上げられると思います。
特に「不正咬合」と呼ばれる歯の疾患は2〜3才頃から出始めて、
高齢になるにつれ増えていく傾向にあるかと思います。
そのために食べられなくなったり膿瘍ができてしまったりと色々な症状が出てきます。
治療を受けてもなかなか完治が難しい病気のひとつで、
さらにウサギの歯の治療をきちんと正しくできる獣医さんもまだまだ少ないのが現状だと思います。

今まで見学したことや勉強したことなどをまとめて、
不正咬合などの治療はどのように進んでいくのかご説明させていただきたいと思います。
もちろんですが、獣医さんそれぞれの方針や考え方、技術の違いなどから
治療の仕方なども違ってきますので、
必ずしもこれらが全ての獣医さんの治療方法ではないと言うことを予めご了解ください。


--ウサギの歯の構造--

ウサギの歯は、切歯(前歯)臼歯(奥歯)の全てが一生伸び続けます。
それを専門用語では
「常生歯」
と言います。
文字通り「常に生える歯」と言う意味です。
資料によっても微妙に違いがありますが、ウサギの歯の伸びる速度は3〜4才までぐらいの若い時期には
上顎の切歯で月に8ミリ、下顎の切歯は少し早く月に10ミリ程度伸びると言われています。
臼歯も月に10ミリ程度伸びるとされていますが、
それらも栄養状態などによって違ってくると思いますし、
高齢になるほど伸びる速度は遅くなるようです。

また、人間と同じく乳歯が生えていて永久歯に生え変わります。
それを
「二生歯性」
と言います。
ウサギの場合は母ウサギのお腹の中、胎児の時点で乳歯は脱落してしまうので
ほとんどその姿を見ることはできないそうです。
たまに生後30日程度以内なら乳臼歯が見れる場合もあるようです。

ウサギには合計で28本の歯があります。
歯の数を数式のように表すことがありますが、それを
「歯式」
と言います。

ウサギの歯式はこうなります。

2033
1023

顔を縦半分に割ったようにして
左右どちらか半分の歯の数を数式として表しています。
(つまり実際の歯の数はこの倍になります)

上、分子の部分の「2033」は上顎に生えている歯の数を表しています。
下、分母の部分の「1023」は下顎に生えている歯の数を表しています。

上顎の最初の「2」は切歯(前歯)の数になります。
ウサギの切歯は2重に生えているので2になります。
ウサギの上顎の切歯は口を開いたときに見える切歯の裏側に重なるように切歯があります。
それを「peg teeth(ペグ・ティース、クサビ状の歯)」や「第2切歯」とか「副切歯」または「小切歯」などと呼びます。
その歯があることでウサギが「重歯目」と分類される所以になっています。
続いての「0」は犬歯の数ですが、ウサギには犬歯が無いので「0」。
続いての「3」と「3」は臼歯の数を表しています。
前の「3」は「前臼歯」後の3は「後臼歯」と分けられています。
下の分母の部分、最初の「1」の切歯は上顎にある2重の切歯は無いので「1」となります。
臼歯の数、「2」と「3」もウサギには下顎の臼歯が上顎よりも1本少ないのでその数になります。

ウサギの乳歯の歯式は

203
102

となります。

草食動物であるウサギはそもそも栄養価の低い草類を食べているので、
その分大量に草類を摂取する必要が出てきます。
そのために歯が減ってしまうので常生歯と言う構造を持ち歯を伸ばし続けることで対処をしています。
歯の根の先端部分に歯を作り出す組織があり、
人間やその他の動物の歯が持っているようなしっかりとした歯の根の部分を持っていないのも特徴です。

ウサギは切歯で食物を横方向に咀嚼して切断して、それを唇や舌で奥方向、臼歯へ送ります。
臼歯は顎を主に横方向に動かす咀嚼により食べ物をすり潰して食べます。
牧草や三つ葉の茎など長いものを食べているところを観察しますと、
茎がクルクルと回転しているのをご覧になられたことがあるでしょうか?
それは顎を横方向へ動かしてすり潰して食べているのでそのように回転しているのです。
これがペレットのような高さがあるような食べ物であると、
臼歯で噛み潰すような縦方向の咀嚼で食べることになります。


--歯の疾患の種類--

歯が悪くなったことが原因で起こりうる症状

歯が悪くなると色々な症状が出てきます。

1)食欲が無い、または偏食する 食べる速度が遅くなる
2)必要以上に口をモグモグしている(歯ぎしりをする)
3)ヨダレを流している
4)涙を流している
5)鼻水が出ている(ヨダレや涙や鼻水を拭くために前足が汚れていることもあります)
6)目が飛び出している、下顎のラインにゴツゴツした部分ができる
7)食べる時に顔が上に上がり、天を仰ぐような格好で食べる
8)顔面に腫れシコリのような膿瘍(ウミ)ができる
9)首が曲がってしまう斜頚を起こす

1)歯が悪くなると一番起こる症状として、
食欲が無い、または今まで好きだったものや硬いものを食べなくなるような偏食をするとか、
食べるスピートが遅くなることがあります。
歯が悪くなっていることで違和感や痛みがあるのでそのような症状が出てくるのだと思います。
またきちんと咀嚼できていないことから消化不良を起こすこともあります。
消化不良を起こすと下痢をしたり、
食べているのにきちんと消化できずに栄養不足で痩せてしまうこともあります。

2)歯が伸びすぎているとかトゲ状に伸びていると、
口の中に痛みや違和感を感じるので必要以上に口をモグモグしていることもあります。
リラックスしているような時にもウサギは歯ぎしりをしますが、
歯が悪くなってくると、そんな普段とは違う音がする歯ぎしりが聞こえることもあります。

3)歯の一部が尖ってしまい、トゲ状(スパイク)になってしまった時には、
その尖っている部分が口の中、舌や頬を傷つけてしまうことがあります。
そうなると口の中のその傷の痛みから食欲をなくしてしまいますし、
ヨダレが多く出ることがあります。
口の中を見るとヨダレの泡がたくさんできていることもあります。

口の中に傷が出来ていて食欲を無くすことで怖いのが
その口の中の傷が1週間程度で自然と治ってしまうと、
痛みはなくなるのでとりあえず食べられるようになり、治ってしまったと思い込んでしまうことです。
しかしその元となっている歯の異常はそのままになりますので、
原因となっている歯は気が付かないうちに悪化してしまいます・・・。
そうなると治療が遅れてしまうことになりかねません。

4)ヨダレと同じく歯の異常で涙が出るようになることもあります。
歯の根の部分に炎症が起きてしまうとそうなります。
特に切歯(前歯)や前臼歯(前の方の奥歯)の根の部分に異常がある場合に
目から鼻へ続く「鼻涙管」にも炎症が起きてしまい、
涙の通りが悪くなることで涙が出てしまうようになります。

5)涙と同様に鼻涙管の炎症で鼻水が出ることもあります。
鼻涙管は目から鼻へつながっているので涙と同じような原因で出るようになります。
鼻水の色がいくつかあり、
透明→白→黄色→緑色
の順番に炎症が強くなっていきます。

ヨダレや涙、鼻水が出ると、それを拭おうとするので、
前足の内側が濡れていたり炎症を起こして赤くなっていたり、
毛が抜けてしまったりする場合もあります。

6)ウサギの歯は常生歯と言う構造で、丈夫な根を持たないので、
後に詳しく説明しますがペレットのような硬さと形状のものを主食として食べ続けていると、
歯が歯茎の中へ押し込められてしまうような状態になってしまうことがあります。
上顎の歯が目の奥へ歯が押し込められてしまうと目が飛び出るようになってしまうことがあり、
さらに悪化して、眼球自体が炎症を起こして摘出を行わなければならなくなることさえあります。
下顎の歯が押し込められて行くと下顎の骨をも突き抜けてしまい、
外から触っても下顎の部分がゴツゴツとしてきたりします。
ここまで進行してしまうと治療はかなり困難になり、抜歯なども視野に入れる必要が出てきます。

7)歯に違和感があるせいだと思うのですが、
食べるときに顔がどんどん上向きになって、空を見上げるように食べることがあります。
それを「スター・ゲイジング」(星の観測の意味)などと言うこともあります。

8)歯の病気が進行してくると、歯の根の部分の炎症から膿瘍ができることがあります。
その膿瘍は顔の部分にもできて腫れあがったりすることもあります。
ウサギの膿瘍は硬く排出がしにくいことなどもあり、とても治りにくい病気です。
ある種の抗生剤が効果的だと言われていますが、
投薬と同時にきちんと歯の治療を行わないと何度も再発を繰り返し完治が難しいやっかいな病気です。

また、口の中に膿ができていたり、ヨダレが多かったりすると、
口が臭くなっていることもあります。

9)それほど症例は多くないと思いますが、
意外と知られていないのは左右の歯の高さのバランスが悪いことで
首が曲がる「斜頚」を起こしてしまうこともあります。
その場合には、歯の治療をしたとたんに斜頚が治ることもあります。
しかし歯が原因で起こす斜頚は、そもそも噛み合せが悪かったり、
咀嚼のおかしなクセみたいなものが原因になるので再発を繰り返すこともあるようです。
反対に歯が原因ではない神経症状が原因で斜頚を起こしている場合には、
首が曲がっているのことが原因で左右の歯の高さのバランスが悪くなってしまっていることもあります。

その他、ウサギも虫歯になります。
猫に多いと言われる「吸収病巣」と言われる虫歯のような細菌が原因になるものとは違い
歯根部分辺りの細胞が作る酸が原因となり歯を溶かしてしまう病気が発症することもあります。
それらは人間と同じく甘いもの、フルーツ類やお菓子などや、
食パンやサツマイモなど炭水化物の多いものを日常的に与えることで原因になることがあります。
ウサギの歯は伸びていくので虫歯になった部分も伸びていき、
食事で磨耗してしまうので放っておいても大丈夫!などと言われることがありますが、
そうそう簡単にうまくはいきません。
その虫歯ができた場所が歯の咬合面に近い部分ならば磨耗することで削れてしまう可能性もありますが
虫歯はどちらかと言うと歯と歯の間や歯茎との隙間などにできやすいので、
磨耗で都合よく治るものではありません。
吸収病巣は歯の根の部分から発症するので、さらに治りにくくなると思います。
虫歯や吸収病巣になった歯は茶色っぽく変色していることもありますが、
見た目ではあまり分からないこともあります。
虫歯以外でも歯髄炎を起こしてしまうこともあります。
しかし虫歯や歯髄炎は見た目やレントゲンでもはっきりと診断を下すことができません。
人間でも歯髄炎の診断は難しいようですが、
「この歯が痛いです」と教えてくれないウサギですのでさらに診断は困難になります。
厳密に言えばその疑わしい歯を抜歯して見てみるか、
死後に剖検(解剖)してみるしか正しく診断を出すことができないのだそうです。

歯にスジのようなものができることがあります。
縦方向にスジができる場合と、横方向にスジができる場合があります。
縦方向にできるスジは虫歯が原因だったり歯を作り出す組織自体が痛んでいることも考えられます。
横方向のスジは、その部分の歯が作られた時期に何らかの理由で食欲不振になったりして、
一時的に栄養不足になっているとそのようなスジが現れる場合もあります。
人間の爪に体調を崩した時にスジが入ることがありますがそれと似ています

切歯(前歯)の不正咬合では、
上下の歯がズレてしまっていたり曲がってしまったりするような状態になるものがあります。
切歯の不正咬合は単独で起こすよりも、同時に臼歯にも不正咬合であることが多く、
臼歯が伸び過ぎで高くなっているために、切歯も同時に伸び過ぎになってしまっていて、
その結果に切歯にも不正咬合になってしまう・・・のように切歯と臼歯は関連しています。

うさぎにも歯肉炎や歯周炎が起きることがあります。
歯肉炎とは歯茎や歯肉に起きる炎症などのことを指し、
歯周炎とはさらに進んで、歯根膜や歯の近くの顎の骨まで炎症が達している状態を指して、
それらを総合的に歯周病と言います。

上記のような症状が見られないとしても、健康診断などを受けたときには
口の中、歯の状態も診ていただきましょう。

歯が悪くなる原因

歯が悪くなる原因はいくつか考えられます。
遺伝的、先天的に歯並びが悪かったり、歯の数が正常ではなかったりする場合もありますが、
後天的にケージを齧ってしまって歯が曲がったり折れたりすることが原因になったり、
虫歯になったり不適切な食事内容が原因になることもあります。

不正咬合

歯の病気の中でも「不正咬合」と呼ばれる状態が一番知られていると思いますが、
不正咬合とは咬み合わせや咬合面が正しく合わない状態、
特定の歯が伸びすぎていたり、曲がっていたりするような状態になっていることを指します。
何らかの理由で歯並びが悪くなってしまった状態だと思われても良いと思います。

不正咬合にも種類があり、大きく分けて
「外傷性不正咬合」

「非外傷性不正咬合」
の2つがあります。

「外傷性不正咬合」
とは、文字通り外傷によって歯の全てや一部が失われてしまうような状態のことを指します。
例えば医学用語では「齲蝕」(うしょく)と言う難しい字を書きます虫歯もそれに当たり、
虫歯になって歯の一部なりが欠けた場合にもこの外傷性不正咬合になります。
ケージを噛んでしまい、歯が折れたことからなる不正咬合もこれに当てはまります。
(ちなみに「外傷性咬合」と言うものもありますがそれは少し違って、
 歯ぎしりのような必要以上に強く噛みしめてしまい、歯や歯茎を痛めてしまうようなことを言います)

「非外傷性不正咬合」
とは、遺伝的に歯や顎の形が正常でないことで起こる先天的なものや、
食事内容が悪かったり、咀嚼の仕方が悪いことで起こる不正咬合のことを指します。
顔が丸く短いドワーフやロップに多いとされている先天的なものも、こちらの不正咬合に分類されます。
例えば、顔の丸いウサギでバッテングと言われる、
上下の切歯の角度が正常ではない場合があり、それもこちらの分類に入ります。
不正咬合とはちょっと違いますが小型のウサギで歯の数が正常のものよりも多く生えてしまっていたり、
反対に少なかったりする遺伝的な異常が見られることもあります。
(その場合には抜歯をして歯の咬合を合わせるなどの調節する治療が必要になることもあります)

外傷性の不正咬合の中に分類できるかと思いますが、
もうひとつ
「医原性不正咬合」
と言うものもあります。
医原性、つまり医療行為が原因になるもので、
正しくない治療を受けてしまった結果、不正咬合がさらに悪化してしまった状態です。
後に説明しますが無麻酔でニッパーで切るような治療を受けて、
咬合面がきちんと合わなくなってしまったり、
歯が割れたり、折れたり、歯根を痛めてしまうことがありますが、
それらは「医原性の不正咬合」に当てはまると思います。

その他、ウサギにも歯周病と言われるような
歯の根の部分や歯茎に膿みがたまるようないわゆる「歯槽膿漏」のような病気もあります。

食事内容が原因で起こる不正咬合

遺伝的、先天的な不正咬合以外では食事内容が原因で起こる不正咬合が一番多いかと思います。
その食事の内容で起こりえる不正咬合はペレットを主食としていることがひとつの原因だとされています。
上で説明したように歯が磨耗してしまうことに対処するために
常生歯と言う構造を持っていて歯は常に伸びていきます。
しかしペレットのような栄養価が高すぎるものを常時主食として与えていると
少量で必要とされる栄養が摂れてしまうので、咀嚼の回数が少なくなってしまいます。
そのために歯の磨耗がしにくくなることで歯が伸び過ぎの状態になってしまいます。
短い歯よりも長い歯の方が外的な力に弱くなり曲がりやすくなるので、
より不正咬合を起こしやすくなってしまいます。

さらにペレットは俵型であり(球形のものもありますが)
その形状から臼歯で縦方向に噛み潰す食べ方をすることになり、
ウサギの基本的な咀嚼の形である横方向へすり潰すような歯の動かし方とは違う形になってしまいます。
しっかりと歯を支えるような歯根を持っていないウサギの歯は、
ほんの数グラムの力がかかり続けただけでも(1〜7グラム程度だと言われています)
臼歯は反対に根の先へ押し込められてしまいます。
そのように噛み潰して食べなければならないペレットを食べ続けてしまうと、
その噛み潰す咬合圧により歯が根の先方向へ向かって押し込められてしまい歯根部を痛めてしまう結果となります。
ひどくなると下顎の骨を突き破るまで押し込められたしまったり、
上顎の歯ならば眼球の奥に押し込められて、目が飛び出してしまうような状態にさえなることもあります。
以前は、ハードタイプのペレットの方が歯が磨耗する、との説もありましたが、
硬いハードタイプの方が噛み潰すのに力が要りますので、
さらに歯を押し込めてしまう結果になるとされています。
またペレットは、前から2番目の臼歯辺りで噛み潰すことが多いようで、
ペレットが原因の場合に第2前臼歯の不正咬合が多いのも特徴です。

これらがペレットが不正咬合の原因になる可能性があると言う説の概要と、
ペレットが原因の不正咬合がどのような状態になるのかと言う説明です。

野生のウサギには不正咬合がない!?

学会での発表はあるようですが、何らかの文献になっていたりしないこともありますし、
その他色々な事情もあるので、
どのようなことが行われたのか ここに具体的にご説明することができないのが残念ですが、
1996年頃にはペレットが歯に良くないのでは?と言う仮説がある獣医さんから発信されています。
その後、国内だけではなく海外の獣医さんとも共同研究がなされ、
診察や治療の中から、野性のウサギと飼いウサギの比較観察やある臨床実験を経て
ひとつの結論としてペレットが不正咬合など歯の疾患の原因になる可能性があり、
野菜主食
はそれを予防する効果があると言われるようになりました。

その説の重要な手がかりとなっているひとつに
「野生のウサギには不正咬合はない」
との報告があります。
(全くない、とは言い切れないと思いますが)
野生のウサギの平均寿命は1年程度・・・との観察結果もあり
不正咬合を発症する以前に死亡していると言う説も成り立ちますが、
その短い平均寿命であることとは関係なく、さらに詳しくは
「野生のウサギの歯は飼われているウサギよりも歯の高さが低い」
と言う説明が付きます。
歯の高さが低いとは「歯が磨耗している」と言うことです。
つまり野生のウサギ達の食生活故に歯が短く磨耗しているので 
不正咬合になりにくいと言う説が成り立ちます。


--ウサギの歯の診察--

問診 視診 触診

診察は飼い主への質問(問診)から始まります。
例えば食欲が無いとか、ヨダレや涙が出ているとか、
歯が原因で起こりうる症状があり、それらの確認になります。
食事内容や住環境などを聴取するのも診察の重要な手がかりになることもありますので、
日頃の食事内容などはできるだけ細かく具体的に詳しく説明されると良いと思います。

顔に膿瘍などのシコリはないか?頭骨の異常はないか?など、視診や触診を行います。
また、顎を左右に動かしてみて、きちんと動くか、引っかかりなどがないかのような診察も行います。

次に、耳鏡(じきょう)と言う、
本来は耳の中を見るための器具を使い直接口の中の歯を視診します。

 「耳鏡」
 これで口の中を診察します。
 画面右側の円錐形の細い部分をウサギの口の中に入れ、
 左側のレンズを通して見ることができます。

中には「口腔内カメラ」と言う、ちょうど内視鏡のようなカメラを口の中に入れて、
モニターで観察できる道具を使われる獣医さんもいらっしゃいます。
カメラだと飼い主も同時に口の中を見ることができますが、
ただ、口の中にいれるカメラの部分が少し大きいので、
細かいところまで見えにくいと言うような欠点もあるようです。

レントゲン検査

続いて必要に応じて歯の根の部分の状態が分かるように頭部のレントゲンを撮ります。

歯は歯茎から出ている部分だけが歯ではなく、
歯茎の中に埋もれている歯の根の部分も重要で、
それにはレントゲン検査が必要になります。

必ずしも全方向の画像が必要ではありませんが、
正確に診るためには
横方向、上から見た方向、顔を正面から見た3方向の撮影をします。
それを専門用語では
「ラテラル・DV・VD」
と言います。
「ラテラル」とは横方向からの撮影。(下のレントゲン画像はこのラテラル像になります)
「DV」とは上(背側)または下(腹側)からの撮影。
「VD」とは顔を正面から見た方向からの撮影のことです。
少なくとも下のような横方向からのレントゲン1枚ぐらいは診察段階で撮る必要があるかと思います。

(このレントゲン画像は先代のうちのウサギのものです 
(注)左右の画像は同じものですので見比べながらご覧ください)

青と黄色の楕円の部分ですが、正常な状態の歯ならば歯の根の部分はこのようにはっきりと白く写らず、
根の先端は歯を作り出す組織があるので黒っぽく半透明に写ります。
上顎の臼歯の青い楕円部分も、根の長さが不揃いになっています。
下顎の臼歯の根の部分も下顎の骨の部分を突き破りそうになるほど押し込められています(黄色の楕円)
上の切歯の根の部分も根の部分に向かって逆方向へ押し込められてしまっていて、
上顎の口の中の肉を突き破りそうになるほど逆方向へ伸びています(緑色の円)
歯の高さ(長さ)が正常の場合は赤いラインの部分は前に(鼻の方向)へ向かって次第に狭くなっているのですが、
奥歯や前歯が伸び過ぎていることにより前の方が開いています。
つまり歯が高過ぎるので口が開き気味になってしまっている状態です。

(こちらのレントゲンもうちのウサギです)

青い円の部分ですが、歯の根の部分が真っ白になっていて隣りの歯の根とくっついた感じになっています。
これが歯の根の部分が
「石灰化」
してしまっている状態のレントゲン写真です。

このように根の部分が石灰化している状態を専門用語では
「仮性歯牙腫」
と言います。
歯が正常に伸びることができなくなったために歯を作り出す組織が痛んでしまい
歯茎の中で言わば暴走状態になり「石灰化」を起こしてしまいます。
石灰化してしまうと歯茎の中で隣りの歯と結合してしまうこともあり、抜歯もできなくなる場合もあります。

下顎の臼歯もほとんど溶けて無くなってしまっています。

・この写真のうちのウサギのルリですが、無麻酔で骨切断用のロンジュールと言うニッパーのような器具を使い、
 無麻酔での歯の治療を受けたことがあります。
 当時10才と言う高齢だったことや、このレントゲン写真でも分かるように、
 すでにかなり歯はひどい状態だったのでその治療を選択しました。


--麻酔--

歯の治療が必要と診断が出たら、麻酔をかける準備に入ります。

麻酔をかける必要がある場合に事前にその安全性を確認するために血液検査を行うことがあります。
血糖値や肝臓腎臓の状態を確認する項目が重要となります。
定期的に治療が続く間は多くても半年に1回程度ぐらいに受ければ良いかと思います。
また、麻酔は体内の脂肪分に吸収されやすいので肥満のウサギは麻酔のかかりも覚醒も悪くなるそうです。
肥満のウサギの場合にはより麻酔の注意が必要となります。
また、麻酔による事故は、その導入時もですが覚醒時にもあります。
鎮静と呼ばれる軽い麻酔のみを使用するような程度の治療であれば(痛みを伴わない)
それほど問題にはならないと思いますが、
麻酔から覚醒するときに手術などによる痛みを急に感じてしまい血圧が急上昇してしまうことがあります。
それにより心臓に急激な負担がかかってしまって事故につながることもあるそうです。
その場合にも肥満であったり、食事内容が不適切であることが
麻酔の事故のリスクを高める可能性があるように思います。

トリミング程度ならば(トリミングとは歯を削って整えること)
「鎮静」と言われる眠った状態でも目頭を触って少し反応があるぐらいの軽いガス麻酔で済みますが、
抜歯や、膿瘍の排出のような痛みを伴う治療の場合には
注射による麻酔を兼用してさらに深い麻酔が必要となります。

切歯(前歯)の簡単なトリミングで大人しいウサギの場合には無麻酔で治療できる場合もありますが、
切歯であっても微妙な矯正が必要なトリミングでは麻酔をかけて行うこともあります。

麻酔は鎮静程度の場合には、
「イソフルレン」(または「イソフルラン」)
と言うガス麻酔を使用するのが一般的です。
ウサギに使える注射によるより深い麻酔薬にはいくつか種類があり、
(それぞれの麻酔薬の具体的な名前などはここでは書きませんが)
その処置による痛みの度合いや、獣医さんのお好みや知識などにより使用する麻酔は違ってきます。
また、単独で1つの種類だけの麻酔薬を高用量で使用するとより危険度が高くなるとされていて、
数種類の麻酔薬をブレンドするようにして、それぞれの麻酔薬を低用量で使用するようにする
「バランス麻酔」を行った方が安全だとされています。

ガス麻酔の導入には直接口と鼻を塞ぐようなマスクを使用したり、
「麻酔チャンバー」
と言う水槽のような形をした(半)透明な箱の中に入れてその中にガス麻酔を送り込んで眠らせる・・・
と言うような方法を取ります。
チャンバーだと麻酔の量が多く必要になり無駄が出るのですが、
ガス麻酔の臭いに反応して暴れるウサギもいて、
マスクによる麻酔導入だと押さえつけて骨折などの事故が起きる可能性もあるので、
チャンバーに入れてしまった方が安全だとも言われます。

余談ですが、麻酔で落ちるときに
(麻酔が効いた瞬間を「落ちる」と言います)
「キーッ」と鳴くウサギもいます。

また、麻酔をかける前に30分ほど酸素を吸わせる方法を取る場合もあります。
そうすると血液中の酸素濃度(酸素飽和度)が下がりにくくなり、麻酔覚醒が良くなることもあるようです。

術前の絶食は基本的に必要ありません。
ただし、術前直前まで食事を摂っていると食事のカスが口の中に残っていて、
それが気管支を塞いでしまう危険性があるので、
術前1〜2時間程度は食べ物は与えない方が良いとも言われます。
通院や待合室での待機、診察や治療の準備に時間がかかりますので、
その間は食べないでいると思いますので特にご心配することは無いように思います。

麻酔が効いたら「維持麻酔」と言いますが、
口の部分はかからない鼻先だけに被るような小さなマスクを使用して
ガス麻酔と酸素を混合したものを送り術中も眠らせておきます。
その鼻先だけに被るようなマスクはそれぞれの獣医さんが使いやすいように自作されることもあります。
また、麻酔中には体温が下がるので、保温のために体の下に電気で温まるマットを敷いておくこともあります。

麻酔が効いているのを確認して足先などに心電図モニターを付けて治療が始まります。


--治療--

治療には基本的に数人の人手が必要になります。
直接治療を行う獣医さんと、麻酔の管理やガス麻酔用のマスクを押さえたり、
器具などを手渡すような仕事が他の獣医さんや看護士さんに任されます。

麻酔が効いたらウサギは診察台の上に横向きやうつ伏せに寝かされて処置が始まります。
最初に口を開いておくために、円を書くコンパスに似た形の「開口器」(かいこうき)と言う器具を使用します。

 開口器

開口器は、先端(画面右側)の部分が楕円形の輪のような形になっていて、
そこに切歯を引っ掛けて口を開いておきます。
画面左側にあるネジの部分を回すと先端が開いていきます。

 左から...

 頬拡張器
 舌圧子
 開口器
 舌かんし

「頬拡張器」は口の中の左右の頬を広げて視界を広げ診察や治療を行いやすくします。
「舌圧子」は舌を押させておいたりするために使用します。
口の中を治療するときに舌が邪魔になるので、
「舌かんし」は先端に(赤い部分)舌を挟んで引っ張っておくために使用します。

その他人間の歯医者さんが使うような小さい丸い鏡も使いますし、
それぞれの獣医さんの好みや技術などにより使用する器具道具は違ってきます。

開口器は切歯に引っ掛けて口を広げるので
切歯を抜歯してしまったりすると引っ掛けることができなくなりその後の治療がやりにくくなってしまいます。
そのような意味もあり切歯の抜歯をする場合には臼歯の状態をきちんと治療した後に行うようにします。

麻酔下での診察

開口器を使い口を大きく開いた段階で口の中をさらに良く診察します。
耳鏡では見ることが不可能な歯の裏側や歯と歯の間や歯茎の間、
歯茎の色や膿瘍ができていないか歯周病を起こしていないか、
歯のぐらつきは無いかなどさらに詳しく診察します。
全ての歯を見るだけではなく直接指で触って歯のぐらつきがないか?なども確認します。
この段階での診察は特に重要です!
事前の耳鏡などの診察では分からなかった異常が見つかることもあります。

トリミング(歯削り)

歯を削るには人間の歯科医が使用するのと同じようなドリルを使用します。

ドリルには大きく分けて2種類あり、
「キーン!」と音がする回転数が早い、空気の力でドリルを回転させる
「エアタービン」
と、
「ブーン!」と音がする、
機械的にモーターでドリルを回転させる
「マイクロエンジン」(またはマイクロモーター)
があります。

エアタービンは非常に回転数が高く(中には1分間に30万回転するようなものもあります)
素早く削れますし、削るときに熱もあまり出なく振動も少ないために歯に負担をかけにくく
歯を削るような処置には最適だとされています。
削るスピードが早いのが利点でもありますが、
ちょっと手元が狂うとあっという間に削りすぎてしまうのが欠点を言えば欠点で、より高度な技術が必要となるようです。
また、エアーで回転させるために風が出るので削った歯の粉が舞い上がります。

マイクロエンジンはエアタービンに比べて回転数は遅いですが
(それでも1分間に1万〜2万回転以上するものもあります)
遅いゆえにゆっくり削れていくことが反対に利点となることもあり、
歯の表面のざらつきを取るような歯を磨くような細かい作業に向いています。
安全性はマイクロエンジンの方が高いのかも知れません。

エアタービンを持っていない動物病院の場合には、
(おそらくエアタービンをお持ちの動物病院はかなり少ないと思います)
整形外科用の骨を削ることなどに使われるマイクロエンジンを使用することもあります。
理想としてはエアタービンとマイクロエンジンの兼用であると思いますが、
マイクロエンジンだけでも十分使用できます。

特殊な機械になりますし、かなり高価なので普通の動物病院で設置してあることは稀ですが、
エアタービンやマイクロエンジン、それに超音波の歯石取りや吸引機までがセットになっている
正に人間の歯科医と同じようなものが揃っている「獣医師用(動物用)の歯科ユニット」と言う専用の機械もあります。

 マイクロエンジン

口の中を良く視診しながら治療が始まります。
刃先(先端にある回転するヤスリ部分)にはダイアモンドドリルを使用して少し削っては指先で触って
削った面のザラつきがないか?細かく確認しながら処置が進みます。
神経質なウサギはほんのちょっとした歯の表面のザラつきだけで気にしてしまって食べなくなることもあるので、
細心の注意をはらいながらトリミングは行われます。
ウサギの場合に気管支に入ってしまう危険があるので、
人間の歯の治療で行われるような水を噴射しての治療は行いません。

より高度な知識と技術が必要となりますが、
状態によっては、矯正するように歯の角度を調整しながら削ることもできます。
時間はかかる(回数がかかる)ことがありますが、
重度の不正咬合のようなものでも、矯正しながらのトリミングでかなり好転することもあります。

 歯の矯正としてのひとつの例です。
 この画像はウサギの上下の歯で、
 上顎の歯が右方向に倒れている状態を表しています。
 このような場合には赤いラインのように
 歯に角度をつけてカットするように削ると、
 咀嚼することで自然と正しい方向へズレて行くことを利用して
 歯の曲がりを矯正する方法です。

うさぎの口の中

普段はなかなか見れませんが、ウサギの口の中や歯はこのような形になっています。

 左右の画像は同じものですので
 見比べながらご覧ください

この画像はお友達のウサギさん、ココちゃん6才の口の中です。
少し分かりにくいですが、画面向かって左側の上、白い円の中。
上顎の手前の臼歯が点線に添うようにトゲ状に尖っていて、頬に刺さりそうになっています。
画面向かって右側の上臼歯も点線に添うように真っ直ぐに生えるのが正しいのですが
外方向(頬の方向)へ向かって斜めになってしまっています。
ウサギは、上顎が下顎よりも幅が広いので、不正咬合になった場合に、
画像のココちゃんの上顎の歯もそうですが、
上顎の歯は外に、下顎の歯は内側に倒れやすくなります。
手前下に1本見えている下の臼歯も伸びすぎで高くなっています。

こちらの画像だと歯が曲がっているのが分かりやすいと思います。
咬合面もおかしな形に変形しているのがお分かりでしょうか!?

こちらは治療後の画像です。
全体的に歯の高さ(長さ)も揃えられていますし、
曲がっている歯も真っ直ぐになるようにとてもきれいにトリミングされていると思います。

・2009年10月現在、
この歯の画像のウサギさんのココちゃんの場合、約6週間おきに治療に通っています。
治療後の画像のようにきれいにトリミングをしていただいても
その上の画像のように数週間後にはまた歯並びが悪くなってきてしまいます。
ココちゃんは下顎が先天的に正常よりも少し狭い・・・ことも原因のひとつだと思いますが、
ペレット中心の食生活も続けたことも原因となり不正咬合を発症してしまいました。
飼い主さんは無麻酔で治療をする、ある動物病院を選択し1年ほど通院しましたが良くなりませんでした。
でもそれは、無麻酔でニッパーで切るだけと言う正しいとは言いがたい治療だった事を知りましたが、
気が付いたときには歯茎までニッパー切り取られていて歯周病も起こしてしまい
治療どころか更に悪化させられてしまいました・・・。

きちんとした治療を受けられないと治らないどころか悪化してしまうひとつの例として、
飼い主さんに貴重なお写真を提供していただきました。
現在は、麻酔処置して歯の治療を行う動物病院へ転院して治療を受けています。
その後に先天的に下顎が正常よりも狭い・・・と言うことも判明しました。
咀嚼のおかしな「クセ」みたいなのがあるのでしょうか?なかなか思うように良くなってくれませんが、
野菜食に変更して約6週間が目安の治療の間隔を徐々に あけることが課題となっているそうです。

ココちゃん、ありがとう!
元気に長生きしてくださいね!!


--無麻酔での治療やニッパーで切断する治療について--

中には無麻酔でニッパーや骨を切断するための器具であるロンジュールを使用して
削るのではなく切る治療を行う方法もありますが、
ニッパーで切る治療法はドリルを使い歯の治療を行う獣医さんの間では、
「絶対にやってはいけない治療法!」とさえ言われています。
ニッパーを使用する治療法だと「切る」と言うよりも「折る」に近い作業になりますので
きちんと治療できないどころか、さらに不正咬合などを悪化させてしまう可能性があります。
歯が割れたり、回数を重ねる度に無理な力がかかってしまい歯がねじれてきたり、
歯の根の部分を痛めてしまう可能性があるとされています。
また、歯茎まで傷つけてしまって歯周病を誘発してしまうこともあります。

術者の技術や運なども関係してくるので不確定な要素もあり一概には言えませんが、
上の画像のココちゃんもそうなのですが、
歯茎まで切り取られてしまって歯周病になってしまった例もありますし、
なんと舌を切られて大出血した例もあるそうです。
本来は歯の咬合面にある溝まで完全に切り取ってしまってツルツルになっていた例も知っていますし、
無麻酔では上顎の歯の治療がやりにくいために(見えにくい)
歯の長さの調節をするのに下顎の歯ばかりを切っていた、などと言う例もあります。
そもそも治療には口の中に治療器具と言う異物を入れられるのですから、
ウサギも嫌がってどうしても多かれ少なかれ動いたり暴れたりします。
そこを無理に保定すると怪我や骨折などの危険さえあります。
ひっくり返し抱っこによる治療中に急に飛び起きてしまい脊髄を骨折させてしまった例も知っています。

ここまでの診察から治療までの流れの中でも無麻酔では
きちんとした診察や治療を行うのは多分に無理があると言うことが分かっていただけるのではないかと思います。
実際に歯の治療を見学させていただくと実感として良く分かりますが、
治療と言うよりもまるで職人技に近いような微妙な細かく神経を使う作業となりますので、
無麻酔で動いてしまう状態ではきちんとした治療には向いていないのです。
上のココちゃんの歯の治療後の画像をご覧になられてもお分かりになると思いますが、
このようにきれいに治すにも、角度を調整するような矯正するためにトリミングでも、
麻酔をかけて動かないようにしておかないとやはり無理があります。
もちろんドリルによる治療でもリスクは存在します。
手先が狂い、歯を削りすぎたとか歯茎を傷つけてしまった、と言う例もありますし、
絶対に安全と言うこともありえません。

普段は麻酔をしての治療を行う獣医さんでも、高齢だったり重度の心臓病があったりして、
麻酔をかけるリスクがかなり高いウサギの場合には無麻酔での治療を行うこともあります。
その場合でもニッパーは使わずにドリルを使用するのが基本だそうです。
とりあえず食べられるようにする・・・と言うような意味では無麻酔での治療の意味はあると思いますが、
結論として、きちんとした治療は期待できないと思った方が良いかと思います。

・・・ここからは個人的な意見となりますが・・・

無麻酔での治療やニッパーでの治療は状態をさらに悪化させる危険性もあります。
見聞きする限りでもその確率は決して低くはないと思います。

アドバイスをさせていただくとするならば、
やはり歯の治療は麻酔をしてドリルで削るのが基本だと思います。
無麻酔でニッパーの治療よりも、麻酔をしてドリルでの治療を受けた方が、
きれいに治りも早く、結局はそれだけリスクにさらされる機会も減るのではないかと思っています。

もちろん無麻酔での治療を受けることを優先したいのは飼い主としての望むのは当たり前で、
できれば、できるだけ無麻酔での治療を受けたいですが、
その場合でも最初から無麻酔での治療だけを優先的に考えるのではなく、
無麻酔治療も無麻酔であることのリスクもあることを理解した上で
獣医さんとも十分にお話しされてからご判断されることを強くお勧めします。
麻酔や無麻酔のリスクや治療の方法などをきちんと説明(インフォームドコンセント)を聞き、
納得してから治療を受けるようにした方が良いと思います。
説明を受けていて、なんとなく引っかかるような、気になることがあるのならば、
即決しないでもう一度考えてみることも必要かも知れません。
またセカンドオピニオンを求めて、違う動物病院でも診ていただくことも重要だと思います。

薬にも副作用があるように、
麻酔をした治療にも、無麻酔で治療を行うことにしてもそれぞれに大なり小なり必ずリスクがあります。
事前に獣医さんに説明を求めたときに、
それを『絶対大丈夫!』のように断定的に説明されるのもいかがと思いますし、
甘言に惑わされないように注意された方が良いのではないかと思います。
(歯の)治療はパフォーマンスではありません。
無麻酔でできるからと言って、技術的に優れているとか言うことの証明ではありません。

そのような見た目に惑わされないよう注意されることもお勧めします。

どのような治療を受けるのかは、
全てが飼い主さんの判断に任されています。
歯の治療を受ける場合にはどのような治療になるのか、
必ず事前に確認しましょう!
それも飼い主としてのひとつの責任であると思います。


--抜歯--

抜歯の場合はガス麻酔だけでは痛みに対処できないので
さらに深い注射による麻酔を兼用します。

 抜けた前臼歯
 (治療として人為的に抜歯したものではありません)
 左側手前に咬合面の溝が見えます

こちらの画像は抜歯したものではなく自然と抜け落ちてしまった臼歯です。
ウサギの歯はこのような形をしていて、
画面の右側が歯の根の部分になりますが、
人間のように二股に分かれているような丈夫な歯根を持っていません。

抜歯するには、先ず歯を歯茎から剥がす処置になります。

それにはエレベーターと言う歯を歯茎から剥がすための器具を使ったり、
注射針を歯の形に曲げて使用する場合もあります。

特に切歯は横から見るとまっすぐではなく曲がって生えているので、
ラテラル像のレントゲン写真を見ながら
その曲線に合わせて注射針を曲げて使用する場合もあります。

歯を歯茎から剥がしたら、歯の形に添って引き抜きます。

抜歯を行うと、その抜けた歯の隣りなどの歯も悪くなってしまう可能性もあり、
抜歯はできるだけ避けた方が良いのではないかと思います。
しかし必要とされた場合には躊躇せずに早めに処置をお願いした方が、
結果的には良い場合が多いとも思います。


--麻酔からの覚醒--

深い麻酔の場合には少し時間がかかりますが、
ガス麻酔だけの鎮静と呼ばれる程度の場合には維持麻酔としてのマスクを外してしまえば
ほんの数分から10分程度で覚醒します。

しばらくはボーっとしていますが、治療前には食べなかったのに抜歯をした場合にでさえ、
麻酔からの覚醒後すぐに眠そうな目をしたまま(笑)食事を摂りだすウサギも多くいます。
切歯全部合計6本を抜歯したのに麻酔から覚醒したその場で食べだしたウサギを見たこともあります。
(その時処置をされた獣医さんには、麻酔導入から抜歯、
 そして覚醒まで30分程度で終了させてしまうような手際の良い治療を拝見させていただきました)
覚醒してしまえばほとんど普通の状態に戻りますが、
麻酔をしたその日1日程度は少し大人しくしている感じになることもあります。

身体を温めてあげると麻酔の覚醒や「抜け」が早くなります。
寒い時期は寒くないように注意してあげると良いでしょう。
冬の時期の通院の移動時も寒くならないように注意してあげると良いと思います。
ただし、夏場などの暑い時期でなくても温め過ぎると熱中症を起こしてしまう可能性がありますので、
(実際にそのために亡くなったウサギを知っています。熱中症を起こすとほぼ助からない危険な病気です)
ご家庭では無理せずに寒くない程度に温める程度で良いと思います。


--投薬--

抜歯のような場合や膿瘍の治療後には、歯を抜いた歯茎から出血を起こしていたりしますので、
状態によって炎症や感染症予防のための抗生剤や
痛み止め、食欲増進剤の薬が処方されたり注射されることがあります。
さらにはその副作用である食欲増進作用を利用する目的なのか?ステロイドまで処方されることもあります。
しかし胃腸の動きが止まってしまっているような状態でない限り、
歯削りだけ、トリミング程度できちんと治療ができていれば
抗生剤や食欲増進剤の投与もまず必要ありません。

不正咬合が原因でそれまで食欲不振だったウサギが歯の治療後、
麻酔から覚醒したとたんに普通に食べだすような姿は何度も見ています。
当たり前なのですが食べられないのを食べられるように歯の治療していただくのですから、
歯の治療後も食べない方がおかしいのではないかと思います。
反対に言えば、歯の治療後に食欲増進剤を必要とした場合には
うまく治療ができていない可能性もあるのではないかと思います。


--不正咬合の予防--

歯は一度悪くしてしまうと完治させるのはかなり困難になってしまいます。
人間ならばクラウンを被せたり、ブリッジなどの治療が受けられますが、
ウサギの場合には常生歯と言う構造からそのような治療ができません。
膿瘍ができると完治はさらに難しくなり通院の回数もとても多くなります。
麻酔のリスクも高まりますし、無麻酔であってもリスクはあるので、
私達飼い主としては、歯を悪くさせない予防が何よりも大切だと思います。
それでできることはケージを噛んでしまわないようになどの住環境の工夫や、
良い食生活をさせてあげることがとても重要だと思います。
治療よりも何よりも予防こそが大切だと言うことをご提案することが
このページのメインのテーマであります。

住環境

ケージの注意点として、例えば床に鉄製の「網状」のものを使っていて、
その下に落ちた食べ物を取ろうとして切歯を引っ掛けて折ったケースがあります(これはけっこう多いです)
網目状のものは一度引っかかると抜きにくいので無理やり抜こうとして
歯が折れてしまような結果になりますので、
床は網目状ではなくスノコ状のものの方がまだ良いかと思います。
水飲み用の給水ボトルを噛むクセがあり
切歯が八の字型に広がるような不正咬合になった例もあり給水ボトルはあまりお勧めではありません。
トイレなどもケージ内に固定してしまうと歯や爪や足などが引っかかったときに
無理やり外そうとして引っ張って歯を折ったり骨折などの怪我をしますので
できるだけ固定はしない方が良いかと思います。
ケージ内にはトイレや餌入れなどの最低限必要とされる以外のものはあまり置かずに、
レイアウトはとにかくシンプルにするのがお勧めです。
またケージの外でも例えば床がフローリングの場合は滑りやすく、
走っていてそのまま壁に激突して歯を折ったり、さらには顔の骨を骨折した例もありますので、
床も滑らない、カーペットならば毛足の短めで爪に引っかかりにくいものがお勧めです。

 紬 5才
 野菜が主食で1日400グラム以上、
 牧草は一握り10グラム程度で
 ペレットは全く与えていません

食事内容

予防でとても重要なのは食事内容です。

1)歯に負担がかかる硬いものや、ペレットを主食として与えないようにしましょう。

ペレットを与えたい場合にはできるだけ少なめに制限した方が良いと思います。
ペレットを全く与えなくても問題ありません。
ハードタイプの硬いペレットほど歯に余計な負担がかかりますので、
与える場合にはソフトタイプの方が「まだマシ」だと思います。
健康な歯でも、すでに不正咬合など歯を悪くしている場合にも水でふやかして柔らかくして与えると
縦方向に噛み潰すことによる歯にかかる負担が軽減します。
ただし、単に歯に負担がかかりにくいと言うことだけで歯はきちんと磨耗しませんので
それを主食にしてしまうとさらに歯の伸び過ぎを助長する結果になる可能性が出てきてしまいます。
野菜を与える場合でも、根菜等のニンジンやカブの実のようなものは、
角切り(ダイス状)に切ると噛み潰すことで歯に負担がかかる場合もありますので、
スライスして与えるようにしましょう。

2)糖類や炭水化物が多く含まれるフルーツ類やら人間のお菓子や食パンなどを与えないようにしましょう。

以前ブログで記事にしたペレットに人間用の乳酸菌飲料をかけて与えるなど
虫歯の原因になりかねない糖類や炭水化物の多く含まれたものを日常的に与えないようにするのはもちろん、
ウサギ用とされたものでも同じく糖類や炭水化物が含まれたオヤツ類なども同様です。
糖分や炭水化物が多いものを日常的に与えるのは虫歯や吸収病巣の原因になること以外でも胃腸にも良くないですし、
糖分が多いとさらには糖尿病になる危険性さえもあるそうです。
フルーツ類など、ちょっとぐらい良いだろう・・・と思われるかも知れませんが、
正直言うと、ほんとにたまに少し程度なら大丈夫だと思いますが、
そのちょっと・・・が毎日ちょっと、になってしまい歯をさらに悪化させる結果になった例をいくつも見聞きしています。
フルーツ類も与えない方が無難ですし、特に与える必要も無いので、
与えなければ与えない方が良いと思います。

3)牧草(干草)も歯を良い状態に磨耗させるには向いている食事ですが与え方や種類には注意しましょう。

牧草は歯を正しく歯を磨耗させるのは良い食事内容ではありますが、
太く硬過ぎるものはかえって歯を痛めてしまうこともあります。
また、牧草が歯茎に刺さって炎症を起こした例もあり、
柔らかめの2番3番牧草の方がお勧めです。
今すでに不正咬合を起こしている治療中のウサギには、
柔らかめの牧草でもあまり与えすぎない方が良い場合もあります。
また、不正咬合を発症すると牧草を食べなくなるウサギも多くいますが、
おそらく牧草程度の硬さでも歯に負担がかかってしまうのだと思います。

歯の伸び過ぎの予防に齧り木を与えると良いと言われることがありますが、
結論として効果は期待できないと思ってください。
切歯の伸び過ぎだけには多少効果があるかも知れませんが、
先天的な不正咬合以外では切歯の不正咬合の原因のほとんどは臼歯にあります。

先天的、遺伝的な不正咬合については予防と言われても
飼い主としてできることはほとんど無いのかも知れません。
しかしそれでも歯に良い食事内容を与えていれば歯を正しく磨耗させておくことで伸び過ぎを防げるので、
それだけでも不正咬合の予防につながります。

長寿うさぎの会の中に
「うさぎの歯の構造と、食べ物について」
と言う、ウサギの頭蓋骨の形などから
ウサギの歯の健康のために良い思われる食事内容を考察しているページもありますので、
是非ご覧になられてください。
(こちらのページも製作に係わらせていただいています)

野菜主食の勧め

不正咬合の予防や歯の治療時にも野菜を主食とすることをお勧めしています。
そもそもうちのウサギ達が野菜を主食に与えるようになったきっかけも
先代のウサギが歯を悪くした時に診ていただいていた獣医さんのご指導から始まっています。
野菜を主食にすると驚くほど大量に食べることになりますので、
それにつれてたくさん咀嚼することで歯は自然と良い状態に磨耗していきます。
繊維質もたくさん含まれていますし、何よりも「生であること」で水分もたくさん含まれていて、
歯だけではなくウサギに多い病気である毛球症や尿路結石などの予防にも最適です。

 うちのウサギの足袋は1才の頃に歯を診ていただいたときに
 『先天的に歯の咬合する角度が悪く、将来的に不正咬合になりやすい・・』
 と診断されていました。
 不正咬合の予防の意味もあり野菜を主食に与えていまして
 現在10才になり年齢のせいか自然と抜けてしまった歯がありますが
 その他の歯はきれいに保てていると獣医さんのお墨付きです。

『野菜は柔らかいから歯が削れない、磨耗しない・・・』
と言われることもありますがそれは間違いです。
柔らかい食べ物はダメと言うことではなく食べる量につれての咀嚼の回数や、
その咀嚼の仕方が関係してくるのであって、
食べ物が柔らかいから磨耗しないわけではないのです。
それどころか歯に余計な負担をかけずに正しく磨耗させるのには
野菜(または「生の」牧草や野草)程度の柔らかさこそが最適なのだと思います。

うちの先代のウサギは不正咬合になった6才頃から野菜を主食にしました。
診ていただいていた獣医さんに
『野菜を主食にするように』
とご指導を受けましたが、
いったいどのような野菜を与えたら良いのか?飼育本などを見ても分からず(今でも分かりませんが)
野菜の与え方について試行錯誤の日々が続きました。
当時の口の中の歯の写真でもあればお見せしたいぐらいですが、
野菜を主食にしてから見た目でも明らかに分かるぐらいに
歯の長さは短く改善されていましたし、歯の色もきれいになっていました。
(その時に感じた驚きと嬉しさは今でも忘れません)
それまではペレットが主食だったので食事内容を変えるのには大変苦労しました。
水でふやかしたペレットを、なんとか1日10粒ぐらいまで減らして、
これぐらいなら良いだろうと思って胸を張って先生に報告したら
『まだ多い!』
と叱られたのを思い出します。
栄養の状態を考慮してペレットも与えるなどの臨機応変な対応も必要でしょうが
歯の治療中や改善のためにはそれぐらい徹底した食事内容の改善も必要なのです。

もちろん個体差と言うのもありますし、どんなに環境や食生活に気をつけたとしても、
そこに歯は存在しますので絶対に歯が悪くならないとは限りませんが、
食事内容に気をつけることで予防効果は十分にあると思います。
すでに歯が悪く治療中のウサギさんの飼い主さんも、
健康な歯のウサギさんの飼い主さんも、
歯のために、もう一度食事内容についてお考えになられてはいかがでしょうか?

ペレットを主食として与えていることが不正咬合の原因になる可能性や
野菜主食がその不正咬合の予防になると言う説は、もうすでに10年以上前から言われていました。
特定の獣医さんや関係の方々を批判するのではありませんが、
ペレットが歯に良くない説や野菜が歯や身体にも良いと言う説があることなどが否定され続けています。
しかし最近は野菜主食の良さを認める獣医さんも少しずつ増えてきていますし、
実際に野菜主食に変えたことで歯の状態(や体調)が良くなった症例も増えてきています。
歯の治療については、きちんとした治療を行ってくださる病院も少しずつ増えてきていると同時に
かえっておかしな方向へ向かってしまっている傾向もあるような感想も持っています。

・不正咬合の予防以外でも食事内容はとても重要です。
 野菜主食のことやその他食事内容についてはこちらに書いていますので是非ご覧ください。

うさぎにとって健康的な食生活とは?


--まとめとして--

歯の治療を今までにうちのウサギを始め、
お友達のウサギさんや全く見ず知らずのウサギさんも含めて何回も見学させていただいたことがあります。
見学させていただいたのもおひとりの獣医さんだけではなく複数の獣医さんの治療を拝見しています。
はっきり数えたことはないのですがおそらく合計で30回以上治療を見学せていただいていると思います。

内訳としては麻酔しての治療がほとんどですが、
無麻酔での臼歯の治療を数回ほど、
無麻酔での切歯の治療も何度か拝見したこともあります。

また、ある獣医さんのご好意で、
普通は入れない獣医師会主催のウサギの歯の治療の勉強会(学会)にも、
素人ながらもぐりこませていただいたこともあって、
生意気にも獣医さんの中に混じって勉強させていただいたこともあります。

もちろん勉強会もとても勉強になりましたが、
治療中、見学させていただいている最中にウサギの歯や治療について
獣医さんに説明していただいたこと、質問したこと、雑談さえもとても勉強になりました。

このページはそのように複数の獣医さんやウサギさんの飼い主さん方のご好意により、
治療を見学させていただいたり、色々な質問のお答えを頂戴したり、雑談も含めてお話ししていただいたり
学会にまで参加させていただり専門書を読んで勉強した中から得た情報など、
つまり自分が経験したものを中心に書いています。
歯の構造や治療の解説はできるだけ正確に間違いが無いように詳しく
さらにそれ以上に優しく分かりやすくお伝えしているつもりですが、
まだまだ勉強の途中の未熟でありますので知らないことなどがたくさんあるかと思いますし、
もしかしたら情報が古い部分や分かりにくい部分などもあるかも知れません。
また、最初に書いたように歯の治療については獣医さんそれぞれの考え方や技量などでも違ってきます。
麻酔をするのかしないのか、ニッパーでの治療が良し悪しなど、どうしても私見も入ってしまいます。
専門的な用語の意味合いなどの解説の表現などについても、
厳密に言うと微妙にニュアンス的に違いなども出てしまうところもあることをご了承とご容赦をお願いいたします。

歯の病気について、どのような治療を受けたら良いのか?
予防には何が良いのか?等、
それぞれの皆様、飼い主様の自己判断や自己責任に委ねられるものではありますが、
そのご判断の材料になれれば幸いです。

正しい歯の治療を受けることはとても大切なことです。
しかしそれ以前に歯を悪くしないように予防を心がけましょう!

なお、このページはブログ
「月と地上のうさぎ達へ」
に記事として書いてものを元にしています。





Special Thanks!!
ココちゃん

『見世物じゃないんだからね』
とおっしゃりながらも丁寧に解説してくださりながら治療を見せてくださった
先生に感謝をこめて

歯を悪くしてしまったことが原因で月へ帰ったドンちゃんへ捧げます


うさぎの健康手帳TOPへ戻る

このサイト全ての文面および画像の
無断転載を禁止します

Last Update: 2009.11.11
Update2009.11.11/ Since: 2003.04.01
COPYRIGHT (C) Hiro and Rudo.
ALL RIGHTS RESERVED

inserted by FC2 system